「トランスの術」について

「トランスの術」とはフレーズをそのまま「移動させる」テクニックで、かなりギター的な奏法でもあります。
要領が分かってくると大変に便利なアイテムになるので、
やっておいて損はない」テクニックになるかと思います。

とにかく音源を聴いてみてください。


これは「同じフレーズ」を2パターン、高さだけを変えてみたリックです。

今度は「フレーズはそのまま」でバックのコードだけが変わっています。


どうですか?
けっこう綺麗にハマっていると思うのですが…
これが「他の場所でも、他の曲でも使える!」ということに繋がります。
(使える場所についての考察は「からくりの解説」でお話しします)

では、コードパターンを少し変えて、同様のリックでアドリブソロを作ってみます。


フレーズを使い回しているのが分かると思うのですが、
どうでしょう? けっこうサマになっていますよね。

ちなみに「トランス」という言葉を調べてみると色んな意味があるんですね。
「横切る・交差する」とか「超えて・超越して」とか「大きる変わる・一変する」とか… 
他には「恍惚状態」や「催眠状態」などの「通常では無い意識状態」とか… 
とにかくただならぬ状況を指している場合が多い様です。

なので「トランスの術」これを「フレーズとコードが交差する」とか「音の意味が一変する」とか、そんな風に解釈すると「なんか通じるもの」がある… 更に「恍惚状態」に入れるとするなら、これはもう「いうことなし!」だと思うのですが如何でしょう…⁉︎

からくりの解説

このテクニックを使うにはコードとスケールについての知識が必要になります。
中でも「スケール=コードトーン+テンションノート」という考え方が重要なので、その辺りから解説をします。

例えば「アイオニアン」と「リディアン」の関係ですが、
コードで解釈するなら「CM7」と「FM7」との関係です。
この2つのコードは「和音の構造が同じ」なので同様の動きが可能です。

ギターのフレット移動と同じ要領でフレーズを移行できる…
完全4度の間隔で「リックをそのまま移行」してやれば、
両方で同じ様に使える訳です。

では、最初に紹介したフレーズで解説をします。まずは「CM7」… 
コードトーンは「ド・ミ・ソ・シ」でフレーズは「シドソミ」という流れです。
この時のリックは「アイオニアン」の範疇です。そして2小節目が「FM7」…
リック最後の音が延びたままでのコードチェンジですが
「ミ」は、Fコードの「M7th」になるのでOKですね。

次の3小節目でリックが移動します。
完全4度上がってFM7のコードトーンとなっています。
モードスケールなら「リディアン」、ところが3小節目のコードは「Dm7」で…
モードスケールは「ドリアン」となります。

この2つ「リディアン」と「ドリアン」… これがまたが良く似ている
代理コードの関係にもなっているので、文字通り「代理・代用」ができる訳です。
「ミファドラ」は、Dm7のコードトーンで考えても「9th・3rd・7th・5th」となって、
ゼンゼンOK!で使えます。

そして、2つ目のフレーズは「テンションノート」を多く含んだリックです。
コードトーンの役割としては、CM7の「レシソラ」は「9th・M7・5th・13th」となり、
テンションノートのカッコいい響きになっています。

次は、Dm7の上で「ソミドレ」ですが、さっきの考え方で「FM7」と解釈するなら、
「9th・M7・5th・13th」となって「CM7と同様の配列」になります。

こんな感じで「これとこれは同じだから…」というセリフはジャズの世界でけっこう頻繁に登場しますね… ただ、この辺りの理屈はかなり込み入ってしまうので、またの機会で解説しようかと思っていますが、ここで大切なのは「仕組みを解った上で、意図的に移動できるか?」というポイントです。

つまり何か一つのフレーズを覚えたとして、それを自由にトランスさせる術を持っていれば「12個、全てのキーで覚えたフレーズを使える!」ということになります。
またその応用フレーズ(フェイク)まで含めると「使えるフレーズが格段に増える」ことを意味します。「覚えたフレーズ」は他の曲ででも、一つの曲の中ででも使い倒す!
会話の中でも「同じ単語」なんていくらでも出てきますよね… これと全く同じなのです。

ジャズとトランスポーズ

ジャズのレッスン風景で「そのフレーズを違うキーでも弾いてみなさい!」みたいなシーンをたまに見かけますが、私は「これ、イジメやん…」とか思ってました。でも本当は、ちょっとニュアンスが違ったんですね…
「これ、やっておかないと後で苦労するよ」という、実は「先生の愛」だった…

特にジャズでは… 短いフレーズでも、さっさとキーを変えればサマになったり… 同じリックを違う場所で使えたり… また、歌姫さんのバックなんかで「ちょっとキーを下げてもらえる…?」なんて時でも… 実はトランスが出来ないとかなり不便なのです。

でもこれ「かなり難易度の高い作業」だったりしますよね… ビギナーにすれば「余計に混乱してしまう…」という気にもなるでしょう。しかし「楽器が弾けるとはそういうことだから当たり前でしょ!」的な意識も必要なのでしょうね。
ビギナーの段階で、こういう意識を持っているか否かの差はかなり大きいかも…です。

簡単にトランスポーズが出来る楽器として、今やトップの座にいるのは「電子ピアノ」でしょう。しかもピアノの鍵盤デザインって「Cメジャー専用」と言っても過言ではない…
音の並び」や「音の役割」などが視覚的にとても理解しやすいと思うのです。
なので電子ピアノにあるトランスポーズモードを使いまくって、いろんな曲を全てCメジャーで弾いてみるというのもオススメです。すると「転調」の仕組みや「音の距離感」などが良く分かる… また「これ同じ音の動きじゃないの⁉︎」という様な、メロディーやコード進行についての「再発見」も多々有って凄く勉強になります。

「電子ピアノ」で、ちょっとしたエピソードを思い出しました。知り合いの「ピアノさん」が練習スタジオに現れて、電子ピアノの前に座り参戦しようとした時の出来事… 彼がピアノの鍵盤に触れた瞬間…「うわっ!」と声を上げて手を跳ね除けたのです。彼が出したかった音と、鍵盤の音が一致しなかった事によるパニック… そう彼は絶対音感だったんです。そしてピアノは「トランスポーズモード」だった。こうなると絶対音感も、便利なのか、不便なのか… 「へぇ そんなことになる…⁉︎」と爆笑したのを覚えています。驚いた本人は「この機能、いらんわぁ」って勝手なことを言ってましたが… 

追伸です。 
ギター奏者の方は「ご安心」ください。ちょっとしたコツを掴めばギターはかなり「トランスポーズに強い!」楽器です。ジャズの世界でギターが活躍できる理由の一つが、この「ギターの特性」にも有るのだろうと思います。

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